佐久間良


 前回のつづき。宇宙船文庫「24年目の復讐ー上原正三シナリオ傑作集ー」から、「帰ってきたウルトラマン/キミがめざす遠い星」、放送タイトル「怪獣使いと少年」。

 シナリオを読んで、完成作品を見直し、確信に至ったのですが、ムルチはメイツ星人が連れてきた怪獣ではなく、地球の魚が水質汚染で畸形化したものです。あげくに、ウルトラマンに口を裂かれ、スペシウム光線で焼き殺されました。この悲しい物語の中の悲しみのアイコンです。「怪獣使いと少年」というサブタイトルはTBSに納品するときに内容をぼかすためにつけられたものだと思います。この題名だと、狡い宇宙人が少年を惑わすストーリーを想い浮かべます。また、メイツ星人が怪獣を伴って地球の調査に来たのなら、侵略行為と看做し地球人はこれを裁くことができます。

 この回は地球人と宇宙人の話ではなく、日本人と朝鮮人の話です。舞台となった川崎は、関東大震災のおり朝鮮人虐殺が行われた場所です。商店主やサラリーマンなど、善良な庶民が暴徒になりメイツ星人を襲撃する場面があります。棒、竹やり、鎌等、時代錯誤かと思える武器ですが、これは震災当時の自警団の得物です。メイツ星人は警官が発砲した銃弾二発で絶命するのですが、往時の朝鮮人は、農器具みたいな殺傷能力の低いものでメッタ打ちにされて死んでいったのです。これは残酷過ぎてテレビドラマでは再現できません。
 殺傷能力が低いと書きましたが、それでも被災全地域で、名前と場所が判明しているだけで、2613名の朝鮮人が虐殺されました。これに追加して、朝鮮人に間違えられて殺された日本人57名。支那人9名。自警団等による殺戮は震災が発生した大正12年9月1日から10月30日まで行われていました。警察も憲兵も庶民の暴動を抑えることが出来ず、新聞は『不逞鮮人、混乱に乗じて強盗、放火、井戸に投毒』というデマを記事にして広めたため、全国的な行動になってしまいました。

 戦後になっても、大阪の少年どもは「(朝鮮人)狩り」という遊びをやっていました。おそらく、川崎でもやっていたのではないかと推測します。かくも残酷で愚かな日本人を、ウルトラマンが救済する理由はあるのでしょうか?人種差別は世界中にあるし、日本人移民も海外で迫害されてきたと言うのは、論点をずらした弁解です。ウルトラマンが問い糾すのは日本人と朝鮮人の関係です。さらに、帰属集団から離れて『おまえは、どうなんだ』と詰問するのです。

 川崎の河原で穴を掘り続けている少年がいます。
 北海道の炭坑が閉山し、出稼ぎに行ったまま帰ってこない父を捜して、この河原でムルチに襲われました。助けてくれたのはメイツ星人でした。河川敷の廃工場で二人で暮らしていたのですが、宇宙人であることがばれて殺されてしまいました。少年はひとりぼっちになってしまいました。
 少年の名は佐久間良。
 学校へも行かず、勉強もせず、テレビも観ず、漫画も読みません。人間にも地球にも絶望しているので、ウルトラマンもいりません。金も無く、力も無く、知恵も無く、いじめられてもいじめられても耐え続け、地面にはいつくばり虫けらのように生きています。救いようのない話かと見える「怪獣使いと少年」に、たしかな答がありました。佐久間良の生き方こそ、美しくて凛々しくて、正しい。
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正義とは・・・?

「怪獣使いと少年」の佐久間良のイラストありがとうございます。
この回は日本人と朝鮮人の話で日本人による朝鮮人虐殺が書かれてありましたがアメリカ人も黒人への人種差別やインディアンを虐殺し自分達の国を作っています。よくよく考えるとアメリカは元々インディアン達が先住民で白人がアメリカ大陸を発見し次々と白人達が上陸し遂にはインディアンの土地を権力や武力で奪い現在に至っては白人達がアメリカは我が国と誇っています。それまでにどれだけの過ちを繰り返して来た事か・・・?そうしておきながら他国のロシア、イラク、北朝鮮・・・など悪い国扱いし自分達が本当に良い国と言えるのか疑問です。
「怪獣使いと少年」においてもウルトラマンジャックこと郷秀樹も佐久間良とメイツ星人、暴徒と化した庶民の間で板挟み状態となりメイツ星人が殺された直後、それまで地中深く閉じ込められていた怪獣ムルチが暴れ出し「早く怪獣をやっつけてくれ!!」と庶民が叫んでも郷は自業自得だと言わんばかりに動こうとしませんでした。それでも怪獣を倒さなければならない使命があるため板挟みの状態になりながらも複雑な気持ちで怪獣に挑んだ時のウルトラマンジャックの心はいかに・・・と思いました。
この作品において「本当の正義」というのは何か?そんな状況の中に佐久間良の存在が大きく感じました。

洋子・パン屋の娘

「ノンマルトの使者」のときに木戸さんからいただいたコメントのパン屋の娘について考えてみました。

シナリオでは、坂田アキの役どころを、おそらく「気になる嫁さん」の撮影で榊原るみのスケジュール調整がつかず、洋子というパン屋の娘が代行しました。
結果的にこれで良かったと思います。
佐久間少年に同情するのが、特権的位置にあるレギュラー出演者ではなく、市井の一般人であったことの意味は大きい。次郎は出ていますが、暴力に対して無力な子供として描かれています。これがリアルです。

正義とは?

絶対的な正義の象徴のはずのウルトラマンが、物語の中で相対的なものになっています。職務であるから仕方ないと、消極的な理由で変身し怪獣をやっつけるのですが、自分の意思ではない行動を正義と言えるのか?
それならば、パン屋であるからという職務的理由づけで自発的な行動に出た洋子の方こそ正義かも知れません。

洋子の同情を受けて、拒絶せずに「ありがとう」とニッコリ笑う佐久間良はなさけないのですが、こちらが思い込むほどの信念を堅持しているわけでもなかったのか?この場面は安心すべきところなのでしょう。

こんにちは!

「帰ってきたウルトラマン」は、私が子供の頃にたぶんいちばん多く再放送されていたウルトラ作品だったかと思います。なので、私も見ていたはずなのですが、こういった詳細なストーリーなどは全く憶えておらず・・・でも、このエピソードはかなりシリアスかつ深いものですね。

以前、私が魔女先生のことをブログに書いた時にとても有り難いコメントをハヌマーン&さとるさんからいただき、こちらでも紹介していただいたのを覚えているのですが(ありがとうございました!m(_ _)m)、 魔女先生にも、少年が弟のように可愛がっているロボットくんに対して、棒や竹やり、石等を持って善良な町内の人達が集団で襲いかかる場面がありました。 私はあのシーンが怖かったし、ブログにも書いたように集団心理の恐ろしさみたいなものを印象的に表している気がしたのですが、もしかしたらあれにもこのエピソードと似たような意味がひそかに込められていたのかな?とふと思いました。わかりませんが。

それはさておき、帰ってきたウルトラマンももう一度見直してみたいです。SF作品として十分すぎるぐらい通用するテーマが、このシリーズでもしっかりと表現されていたのですね。特にこの「怪獣使いと少年」はぜひとも見たいです。
ハヌマーン&さとるさんの感想、最後の5行が深い!

ロボットケイタロウ

読んで下さってありがとうございます。

平成ウルトラマンメビウスで「怪獣使いの遺産」という、このエピソードの後日潭が作られます。地球人とメイツ星人が仲直りする話です。映像もクリアで、子役の服装も小奇麗で…あの問題作の回答がこれなのかと疑問になりました。
社会のつながりの中で生きること、多数派の価値観を共有すること、そんな当たり前の生き方に「怪獣使いと少年」は問題提起をしていたのでした。それは自覚しないままに少数を圧迫し排除する暴徒と変らないのではないかと。
佐久間良はたった一人で世界と対峙する男でした。これに別解釈の続編をつけることは蛇足だったと思います。

市川森一さん脚本の「ぼくの弟はロボットだ」も好きなエピソードです。そういえば、子供の頃はみんなムチャクチャなウソばっかりついていたなと懐かしくなります。本当の弟が生まれてケイタロウは用済みになるのですが、あのウソが全く無意味だったとは考えたくないのです。

「帰ってきたウルトラマン」が大好きという人は多いのですが、大傑作かと思われるのは早合点です。カニ座からカニ怪獣が来るというようなガックリな回も多いのです。マナサビイさんなら榊原るみの服装とか私とは違う視点で再評価されるのかも知れません。
プロフィール

ハヌマーン&さとる

Author:ハヌマーン&さとる
怪獣本・特撮書籍の蒐集。

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