かまきり男


「宇宙船」Vol.33(昭和61年11月)。特集「レインボーマン」。仮面ライダーがブームを巻き起こしていた時代に、「月光仮面」の川内康範さんに原作を依頼し、昭和30年代風の変身ヒーローが作られました。製作当事者側の予測はともかく、たとえばテレビマガジン編集部などは疑問をいだいていたようです。ところが、これが大人気番組になったのでした。月火水木金土日の七つのヒーローに一人で変身出来ることが子供にウケたのでしょうか?それも経文を唱えて……。
「アノクタラサンミャクサンボダイ」、漢字では「阿耨多羅三藐三菩提」と書きますが、これはサンスクリット語に漢音をあてはめただけで、いわば万葉仮名のようなものです。意味は正しい悟りを得たということ。変身とは何か?それは悟りをひらくこと。変身ヒーローとは正しい悟りを得た覚者のこと。究極の回答です。
 煩悩私欲を断ち、衆生無邊誓願度、世界の平和と全人類の幸福を願う。この境地に至れば、不安も迷いもありません。しかし、川内康範さんは、それだけではまだ小乗、個人体験を出ないとします。正義を行う力を体得しなければ意味が無いと。また、その力は、改造手術とか強化服などの安易な方法で手に入れてはなりません。山奥で修行して、身体能力を極限まで高め、潜在能力を引き出すのです。そんな凄い男がいるのかというと、川内康範さんは大山倍達を見ていました。日本の娘を強姦しようとする進駐軍の黒人兵や白人兵をやっつける、漫画「空手バカ一代」に描かれるあの場面を、川内康範さんは実際に目撃して心底感激したのでした。強大なアメリカ軍に、たった一人、素手で対抗せんとする快男児。月光仮面のモデルは大山倍達であったことを告白しています。日本のテレビヒーローの原点を月光仮面とするなら、仮面ライダーごっこが嵩じて空手道場に通い始めるというコースも、あながち誤りではないのです。川内康範さんと大山倍達の親交は生涯続きました。

 川内康範さんが、テレビや新聞に急に登場するのは、平成19年、その死の寸前でした。森進一が「おふくろさん」に詞を付け足して歌っていることを知って、作詞者として激怒したと大騒動になりました。森が謝りに行っても川内さんの怒りはおさまりません。著作権とか法律的見地では、川内さんが正しいことは認められたのですが、多くの人は、怒るほどのことかと思いました。“おふくろさん”という語感から京塚昌子のようなものを想像し、あるいは、自分の母親を想定して歌えばよいのではないかくらいに考えました。歌の歌詞にいちいちこだわっていたら人生幸朗になってしまいます(「責任者出てこい!」「なにゆーてんの、このドロガメー!」)のですが、あらためて「おふくろさん」の歌詞を読んでみました。「世の中の傘になれ」とか「世の中に愛を灯せ」とか、このお母さんは息子に抽象的なことを要求しているようですが、実は本気だったのです。世界の平和と正義のために、強く生き、潔く死ねと訓えていたのです。烈女です。息子は月光仮面か大山倍達になるしかありません。森進一自身が、まさかそんな強烈な思想の歌だとは思っていなかったのでしょう。川内康範さん作詞のヒット曲「骨まで愛して」もレトリックではなく、具体的な強要だったのです。
 なお、大山倍達の思想信念は「日本武道の精神こそが世界に平和をもたらす」でした。
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怪獣本・特撮書籍の蒐集。

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