ワルダー


 宇宙船文庫「日本最強悪役列伝」(昭和62年6月)。「月光仮面」から「超人機メタルダー」までのテレビ悪役200人を選出した本。大々的な世論調査をしたはずはなく、構成執筆として記名されている大石真さんほか三人くらいで決められたものだと思います。なぜか安藤三男のキャラクターが多く上位に選ばれているなと思うくらいは特に異論はありません。バルタン星人とジャミラは入っていますが、知能の低い怪獣は悪役の定義から外されているようです。
 そのバルタン星人は2位で、1位はハカイダー。ハカイダーの1位は現在も不動。ヒロインNo.1が永遠にアンヌ隊員であることとともに、考えてみれば「特撮」は動きの少ないジャンルです。

 前々回ビジンダーを描いたので、今回はワルダー。「日本最強悪役列伝」には15位で入っています。キカイダー01を倒すためにシャドウが雇った殺し屋ロボット。誰に造られたのかという出自が明かされません。ダークとシャドウ以外にもアンドロイドのメーカーがあり、レンタルもやっているのかという空想がひろがります。原作漫画にも登場しますが、まったく違うキャラクターです。初登場回の脚本は長坂秀佳さんなのですが、むしろ勝手な方向に独り歩きして行ったようなヤツです。
 おそらく、当初はキカイダーに対するハカイダーのような、01の好敵手として設定されました。ハカイダーの武器が銃だったので、ワルダーの武器は剣。なりゆきでサムライロボットの性格が与えられました。悪役ながら清廉潔白というオリジナルでハカイダーとのキャラクターの差異を確定させます。唯一の弱点はQちゃんと同じで犬が怖いこと。(なお長坂先生は犬好きで、作品にも犬がよく出てきます。)

 サムライロボットにされたことが、ワルダーにとっては幸だったのか不幸だったのか?昔の武芸者が武者修行で強くなっていくように、ワルダーのシステムも闘争を経験することで学習するプログラムですが、やはり、往時の剣士が真剣の決闘を勝ち抜きながら、精神を高めていったように、ワルダーの電子頭脳も精神的なものを醸成していきます。戦って勝って強くなる…その先に何があるのか。すなわち、キカイダーと同じ悩みを持ち始めました。自分はなぜ人造人間なのか?
 同僚ともいうべきハカイダーは相談相手になりません。知能は高そうですが狡猾な野心家であるこいつとは、最初から気が合いませんでした。むしろ、敵ながら強くてまっすぐな01に敬意を抱くのですが、それだけに弱みを告白するには男の意地が邪魔します。
 そこに、ビジンダーがいました。女の姿で油断させて01を倒すというコンセプトで造られたシャドウロボットだったのですが、01に良心回路を入れられてしまいました。人間的な思考が働き始めると、女であるだけに外見への苦悩は深刻になります。ワルダーは、人間社会でロボットとして生きる疑問と、目下の悩みをうちあけます。ビジンダーは共感しました。複雑な気持ちを理解してくれるビジンダーに感じた母性はすぐに恋情に変化します。剣の道を極め、禅境に至る可能性もあったサムライプログラムだったのですが、導く師に出会えなかったワルダーは恋慕の獄に堕ちてしまいました。

 しかし、ビジンダーが好きなのは01だったのでした。ワルダーは、守り刀として宝刀村雨をビジンダーに贈ります。これは自分の刀正宗とセットになっているものです。このワルダーの思いを込めた刀を…ビジンダーは、01にやってしまうのです。ワルダーは嫉妬に狂って01に決闘を挑み、村雨で斬られて死にます。

 奥山にふみわけ入りて人里に出る。柳生十兵衛のこの言葉をワルダーに供えたいと思います。非情の道を追い求めた先にも人の世が恋しくなると、いにしえの剣豪が言っていました。
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ビジンダー


 宇宙船文庫「人造人間キカイダー/キカイダー01」(昭和61年12月)。キカイダーのファンコレは出ていないので、この本が初めての研究資料です。文庫版ですが写真が大きくて造形をやっている人には参考になったと思います。なお、キカイダーには熱心なファンが多いのでマニアックな同人誌は作られていました。私設のキカイダーファンクラブもありました。

 「人造人間キカイダー」も平山亨プロデューサーの企画で伊上勝さんの脚本です。この時期の平山さんプロデュース「仮面ライダー」「超人バロム1」「変身忍者嵐」「ロボット刑事」の脚本は全部伊上さんです。「キカイダー」を途中で抜けるのは「仮面ライダーV3」の準備が始まったからです。ものすごい忙しさの中で古巣宣広社の番組も書いていました。
 宇宙船文庫編では脚本の話を書いていますが、私自身は脚本のことはよくわかりません。それでも、怪人が出てきて、悪いことして、仮面ライダーがやっつけるという話なら誰でも書けそうな気がするのです。平山さんは、なぜ伊上さんにばかり書かせたのか?勘繰るに、これは平山さんのジンクスではなかったか?昔の東映には、この人に惹句を書かせると映画が当たるという人がいました。「背中で泣いてる唐獅子牡丹」「死んでもらいます」と一行書くだけの仕事で、あとは競馬場にいました。その人に芸名をつけてもらうと必ず売れるという占い師のおばはんとかもいます。また、石ノ森先生がほとんど企画に携わっていないのに、原作石ノ森章太郎という看板が掛けられるのも、やはりジンクスの類ではないのか…?

 平山亨さんが脚本家伊上勝に注目したのは、宣広社の「隠密剣士」でした。平山さんはもともと京都で時代劇をやっていた人です。チャンバラがはやらなくなってテレビにまわされたのですが、本当にやりたかったのは時代劇忍者物です。名作「仮面の忍者赤影」は「隠密剣士」の脚本の伊上さんと出演者牧冬吉、天津敏を起用して(あるいは、引き抜いて)作られました。
 「隠密剣士」は当時、絶大な人気を博したと解説されます。昭和37年から40年にかけて、128回、平均視聴率30パーセントという数字、残っている証言、写真から、言葉通り名作であったと受け取ってよいと思います。主役を変えた続編「新隠密剣士」の不調と、その後番組「ウルトラQ」によって子供の価値観が大転換したことで、後年語られることが少なくなったのでしょう。前回、私は「仮面ライダー」より「仮面の忍者赤影」のほうが面白いと書きましたが、その「赤影」よりも「隠密剣士」のほうが上質だったという人も多くいます。たとえば、京本政樹、桂べかこ(南光)といった世代の人々。

 主人公は十一代将軍家斉の異母兄、松平信千代(演・大瀬康一)。剣の奥儀を極め無想の境地に達し、浮世の煩事を離れて生きています。栄達を望まず幕府の役職にも就きません。しかし、政権転覆を企てる闇の組織の蠢動が伝えられると、その剣技を乞われ、徳川家安泰と天下国家のために立ってほしいと促され出ていくのです。そのときに使う別名が隠密剣士秋草新太郎(京本政樹は、「大江戸捜査網」で隠密同心秋草新十郎という役を演じた)。
 幕府の全権を付託された国家的存在なのですが、政治的未来ヴィジョンは語りません。その発言記録を要約するなら「民百姓のくらし安かれ」と。最大公約数2か3くらいの小さい数値です。このささやかな正義の値は、後に続く伊上ヒーロー、仮面ライダー、キカイダーにしてもさほど変動しません。
 正義の味方とはそんなものだろうとタカをくくっていたら、同じ宣広社作品大瀬康一主演でも、月光仮面は日本民族の代弁者のような物の言い方をするのでびっくりします。日本と正義が等号で結ばれる前提に基づいています。脚本の川内康範さんが、徴兵制度で天皇と国民(臣民)が直結していた時代の人だったからだと思います。女子に兵役の義務はありませんでしたが、従軍看護婦などは天皇の名で召集されました。男以上にはりきって出ていったそうです。

 「隠密剣士」について必ず言われることは、忍者ブームを巻き起こし、後に続く忍者のイメージを作り上げたということです。企画の西村俊一さん、制作の野木小四郎さん、殺陣の松宮久武師、そして、牧冬吉。残っている記録資料を調べて、考証の正確をもとめるとともに、自由にイメージを拡げて独特の動き方等も考案しました。雨の日、OLさんが踵の高い靴で軒から軒にわたるとき、腰を落として忍者走りをしますが、あの走法も牧冬吉があみだしたのでござる。
 と、いうことはどういうことか?昭和40年以前の忍者はどんなものだったのか?いや、実際の忍者とはどんなものだったのか?忍者の姿をもとめて日本に来る外人観光客相手に忍者ショーが盛んに行われています。忍者シューズだと言って地下足袋を売りつけたりしています。私はあれを歴史認識の捏造ではないかと心配しております。
 なお、ケニヤのマサイ族が裸になって槍を持つのは観光客の前だけで、実は携帯電話を持っているそうです。

キカイダー01


「宇宙船」Vol.6(昭和56年5月)。巻頭カラー企画は'70年代TV特撮名作カタログと題して「人造人間キカイダー」「キカイダー01」「イナズマン」「イナズマンF」「変身忍者嵐」を取り上げます。50年代の映画に絶対的価値観を置いてきた「宇宙船」の方向転換かと思いながらも、石森ヒーローの代表であり1970年代の顔ともいうべき仮面ライダーシリーズが、すっくり抜けていることに不自然な観があります。仮面ライダーについてはファンタスティックコレクションを出しているので重複を避けたと解釈することもできますが、私は、宇宙船がSF専門誌としての見識を示したのだと思います。低級子供番組の代名詞「仮面ライダー」は、SFとも特撮とも呼べないと。また、読者側としても、いま、生まれつつある新たな研究分野“特撮”が幼年期の懐古であっては困る事情がありました。ギリギリの妥協点が「キカイダー」だったのです。
 Vol.6の作品研究は「スーパージャイアンツ」全9作。古いものについてはは迷いも屈託もありません。誰でも知っていて、上映会のプログラムに一本はさんでおくと鉄板でウケるスーパージャイアンツなのですが、リアルタイムに映画館で観た子供の感想を聞いたことがありません。竹内義和さんでもテレビで観たことしかなく、そのときにしても「かっこいい」とか「面白い」というよりも不可解な物を見せられているという思いが先行したそうです。
 なお、宇宙船は古い話ばっかり書かれている本ではなくて、新作映画の情報も載っています。季刊誌でなければ、むしろどこよりも早いくらいでした。今号には東宝の大作「連合艦隊」の取材レポートとか、「Conan」の製作が決定し、主役に新人アーノルド・シュワルツェンネガーが選ばれたという速報が入っています。

 特撮ファンをやっていると却ってわからなくなるのですが、ゴジラとガメラ、仮面ライダーとキカイダーには世間の認知度に懸隔の差があるようです。平成ガメラが好評をとったとき、ガメラ側の代理人徳間社長がゴジラとの対戦を提案したのですが、東宝の富山プロデューサーは断りました。事情通の人に聞いた話では、平成ガメラがヒットしたと言っても興行収入においてゴジラとは月とスッポンの差があり、ゴジラ対ガメラを作って収益を二分したら、東宝が損になるという計算があったそうです。去年キカイダー映画がありましたが、知名度に自信の無い宣伝部は「伝説のヒーローがよみがえる」というような謳い文句をつけました。特撮ファンがキカイダーを忘れたことは一日もありません。それを「伝説」と言う鈍感な無神経さがさびしかったのです。
プロフィール

ハヌマーン&さとる

Author:ハヌマーン&さとる
怪獣本・特撮書籍の蒐集。

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