アイスキュロス


 宇宙船文庫「ウルトラマン怪獣事典」「ウルトラセブン怪獣事典」(昭和60年4月)。この二冊は、特撮ファンでもない友達の部屋の本棚に、それこそ何かの参考にという感じで並んでいました。「わしも持っとるで」と言ったら、叱責されました。ウルトラ怪獣図鑑のたぐいをあれほど持っているのに、そこにこの二冊を買い加えることはもったいないと。言われてみたらその通りで、ウルトラファンの基本知識を超えることは書いてありません。
 ただ、とても感じの良い本なのです。真面目な同級生の本棚に参考書と一緒に並んでいても違和感が無いのです。逆に言うなら、不真面目な劣等生の私には似つかわしくない本かも知れません。

 で、今回のイラストはコレ。公式にはアイロス星人とされていますが、ファンの間では違うと言われています。円盤の方はウルトラホークに撃墜されるのに、本体の方がアイスラッガーをはね返すのはおかしい。アイロス星人が連れてきた怪獣(古い兵法用語では貔貅と云う)と考えた方が納得がいきます。アイロス星獣と呼ぼうかと思いましたが、アイロス星の動物ではないかも知れないし、人工的な生物かも知れません。「V3から来た男」の準備稿ではシリウス星人が連れてきたアイスキュロスという名前になっています。カッコいいのでこれにしました。

 第13話「V3から来た男」の脚本は市川森一さん。「快獣ブースカ」から抜擢されてのウルトラシナリオ第一本目です。地球防衛軍のディティールを書き込んだような話です。
 宇宙からの侵略者に対しては、Vナンバーの警戒ステーションから戦闘機隊が出動して大気圏に侵入する前に邀撃するシステムになっています。宇宙戦闘隊に選抜されるのは技倆優秀な者なのですが、戦死する確立は高く出世コースからも外れた貧乏くじポストでもあります。いくら手当てや恩給をもらっても宇宙に常駐しているので使う機会がありません。宇宙ステーションV3戦闘隊長はクラタ。キリヤマとは士官学校で同期。実技での成績は自分の方が上だったのに、ウルトラ警備隊の隊長になれなかったことに不満を持っているという設定。すごくリアルです。
 さらにリアルなのは、この人事が適材適所であること。キリヤマ隊長は最後まで部下から犠牲を出しませんでしたが、クラタ隊長はよく部下を喪っています。基本的に個人プレイの人なのです。キリヤマが警備隊から戦死者を出さなかったことは幸運も手伝っていたのですが、運が強いことも古今の指揮官に大きく求められる資質です。

 キリヤマとクラタ……。阪神ファンなら村山実と江夏豊の関係を連想します。一方は監督になり、一方は阪神を追われて、あちこちのチームを転々とし、どこへ行っても喧嘩していました。あるいは西川きよしと横山やすし。一方は国会議員になり、一方は犯罪者。キカイダータイプとハカイダータイプ。どちらかといえば、男の理想型はハカイダータイプなのですが、市川森一さんはキカイダータイプだったと思います。ブースカからセブンに行って、子供番組から大人番組に行って、シナリオライターとしてテレビ人として華麗に成功してゆきました。それをハカイダーのように妬んでいたのが、長坂秀佳さんだったと云われています。

 防衛組織の機能分担が一番丁寧に描写されていたのは「ウルトラマンガイア」のXIGですが、軍隊としての説得力は圧倒的に「ウルトラセブン」の地球防衛軍です。スタッフやキャストに戦争体験があり、自身が軍隊に入っていた人もいたからです。XIGを見ていて気になるのは、上級者下級者関係なく基地内無帽で挙手の礼をしていることです。私にはふざけているようにしか見えません。「V3から来た男」の一場面。ホーク1号の格納庫に続く通路で、マナベ参謀に「キリヤマを守ってやってくれ」と言われ、クラタは背筋を伸ばし上体を15度前に倒します。あれが正しい敬礼です。
 なお、クラタ役の南廣は昭和3年生まれ。昭和20年の時点で徴兵年齢に達していないので軍隊経験はありません。ところが、菱見百合子によるとキリヤマ隊長中山昭二は昭和3年生まれなのに軍隊に入っていたといいます。どういうことかと思ったら、なんと少年兵に志願していたのでした。

 「V3から来た男」完成作品のラストシーンはクラタとキリヤマのしみじみとした別れなのですが、シナリオでは、V3帰還後、アイロス星人の円盤艦隊が逆襲してきて、クラタがまた迎撃に出るというものです。戦争続行のままで終る話は無いので、こっちの方がよかったかなとも思います。
 あと、南廣の風貌は、202機撃墜の零戦パイロット岩本徹三中尉の写真に似ています。この人も酒呑んで慰安所から出撃するハカイダータイプです。
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ウィンダム


 上原正三のウルトラセブンについて考えるつもりだったのですが、宇宙船文庫「24年目の復讐ー上原正三シナリオ傑作集ー」(昭和60年3月)には、「セブン」からは三本しか選ばれていませんでした。
「悪魔の住む花」お話も映像も面白かったのですが、これはアイデアとして「ミクロの決死圏」に永久に勝てない悲しさがあります。
「1万5千人の侵略(あなたはだあれ?)」地球人がすべて、昼に活動して夜に寝ていると思って侵略計画を立てたフック星人の事前調査は、メトロン星人より杜撰でした。
「300年間の復讐」一旦、ボツになったあと、実相寺さんに見せたのですが、やっぱり理解されなかったというシナリオです。上正先生には思い入れが深いらしく、セブンのために書かれた他のOK脚本、NG脚本を押しのけて、この文庫にも入っています。そして平成5年になりNHKドラマ「私が愛したウルトラセブン」の中でついに映像化されるという執念のシナリオです。文字でしかなかったトーク星人も実体化しました。

 今回のイラストはそのトーク星人を描こうとしたのです。アンヌを妹とまちがえて拉致したのですから人間と同じ顔だと思いますが、NHKドラマ中に登場するトーク星人はゴース星人とフック星人を併せたような顔でした。成田ー池谷ラインから外れないものをという忖度だったのでしょう。森の中の洋館に住んでいると書かれてあるので、貴族のイメージがわきました。馬に乗せたくなったのでメカウマのデザインくらいは自分で考えてみようと思ったのですが、成田ー池谷ラインに沿ったものをと忖度していたらウィンダムみたいになってしまいました。ウィンダムにトーク星人を乗せるのは不自然なので、そのままウィンダムにしてしまいました。今回は最初からグダグダです。

 グダグダなまま、表題作「怪奇大作戦/24年目の復讐」を見てみます。戦争中、爆雷を受けて沈んだ潜水艦の中で生きていた兵士が、薄い酸素でも呼吸できる水棲人間になり、横須賀に駐留する在日米軍に復讐するという話。水棲人間の謎解きよりも、戦争を忘れてはならないという部分にテーマが置かれています。水棲人間の役は天本英世。天本さんも徴兵されましたが、内地にいたので実戦経験はありません。
 日本の女とデート中のアメリカ兵が狙撃されます。沖縄出身の上原さんが見せつけられた光景だったと思います。その関係が恋愛であれ売春であれ強姦であれ、日本男子としては面白いはずはありません。なお、この時点で沖縄はまだ返還されていません。

 そして、この5年後、フィリピンのルバング島で小野田寛郎少尉が発見されます。その任務は残置諜報員。かりに今回の戦争で負けたとしても、現地情勢の調査を続行し、日本軍が再びルバング島に上陸したときに情報を提供し協力せよという命令。補給が断たれたら自給自活。連絡系統が断たれたら独断専行。選抜されて中野学校で教育を受けたというくらいですから、かなり優秀な軍人だったことは間違いありません。水棲人間ではありませんが、30年間も緊張状態にあると体質も変化したそうです。夜でもジャングルの中で行動できるようになるし、凄いのは、飛んでくる銃弾の軌道が見えるようになったといいます。その線を避ければ弾に当たらないのです。

 昔の上官だった人が出て行って命令解除を通達し、小野田元少尉はようやく帰国します。日本国民はとまどいました。一人で戦争を継続し、日本軍の再起を信じていた小野田さんから見れば、戦後生まれも含めて全員裏切り者です。
 元中尉坂井三郎さんも動揺しました。プロフェッショナルの軍人として旧敵アメリカ軍からも尊敬され、水棲人間がつけ狙った横須賀の在日米軍の司令官も、着任時必ず表敬訪問するという人です。こんな理想的な関係すら裏切りになるのか。「丸」編集長高城肇さんと対談した当時の感想が「続々・大空のサムライ 撃墜王との対話」(光人社)に収録されています。
 小野田さんの言い分には非の打ち所が無いが、それでも疑問が残る。命令だけで三十年間も戦い続けられない。本当のことを黙っている。日本軍を裏切り、部下を殺したフィリピン人への復讐ということなら納得できると坂井三郎は言うのです。

「300年間の復讐」「24年目の復讐」「復讐鬼ヤプール」…上原正三は復讐の作家とも呼ばれています。  つづく
 

ノンマルト


 前回、宇宙船別冊ウルトラブックスを出してしまいましたので、宇宙船文庫も取り上げて、より完全を期します。「ノンマルトの使者ー金城哲夫シナリオ傑作集ー」(昭和59年9月)。巻末の竹内博さんの解説によると、昭和52年にアディン書房より「金城哲夫シナリオ選集」が上梓されていたのですが、そこには円谷プロ作品が三本しか入っていなかったそうです。朝日ソノラマの「金城哲夫シナリオ傑作集」は全部円谷プロ時代の仕事。「WOO」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「マイティジャック」「戦え!マイティジャック」「怪奇大作戦」。「WOO」はもちろん未映像化企画なのですが、「セブン」の未使用シナリオ「認識票No.3」もおさめられています。登場する怪獣はジャッキー。池谷仙克さんの気持ちになり切ってデザインを考えてみると愉しくなります。『う〜ん、成田さんの物からあまり離れてはいけないし、かといって同じようなものでもいかんし、どないしたもんや……』

 表題作「ノンマルトの使者」。監督の満田さんと酒を飲んでいて思いついた話だといいます。かつて地球に先住民がいて、後発で進化した人類こそ侵略者だったとしたら?宇宙からの侵略者に毎週攻撃されている地球人が、侵略者でもあったという視点は、満州やベトナムに進出した結果、世界戦争に敗れた日本民族としての記憶からの発想です。
 太古の昔、剽悍で狡知に長けた人類に圧迫されたノンマルトは海に逃れ、海底に独自の文明を築き上げました。ところが最近、地上にあふれた人間は、海に居住地をもとめて海底開発計画を進め始めました。おとなしいノンマルトも、ついに生存権を賭して人類に逆襲してきました。
 壮大無辺なアイデアです。30分では収まりません。いや、収拾はついたのです。ノンマルトを全滅させるという一番安易で合理的な方法で。ノンマルトを地球史から消してしまいました。金城さんも満田さんも、こんな結末になるとは、最初、考えていなかったのではないでしょうか?人類の目指すべき理想を提示するのが「ウルトラセブン」の方向性だったはずです。

 物語の中で決断するのはキリヤマ隊長でした。海底都市を眼前にして、知性を有する地球生物である可能性は考えたのですが、戦闘を続行します。最前線の指揮官として、この決定はまったく正しい。状況を迅速に終了させ部下の損耗を少なくすることが第一義です。じっくり考えたとしても、海上交通、海底資源、水産物の供給をノンマルトに遮断されたら日本人は滅亡するしかありません。
 ならば、ウルトラ警備隊のノンマルト殲滅作戦に加担したセブンの決断はどう判定されるのか?ウルトラセブンは地球民族同士の戦争に立ち会った第三者です。

 本質論として、ウルトラセブンは最初から最後まで明確なものではありませんでした。ウルトラ人としては青年期ですが、年齢20000歳。20000年分の知識と経験があります。人類が宗教や哲学の体系を完成させるより長い年月を生きています。身長40メートル。大脳容積は人間の10000倍。戦闘力は地球防衛軍並かそれ以上。これは、もう神です。しかし、ウルトラセブン=モロボシダンが老成した人物として描かれていたかというと、地球人が造った戦艦マックスを見て「かっこいいなあ。乗ってみたいなあ」と目をキラキラさせている、むしろ幼稚なやつです。北海道出身のフルハシとか九州出身のソガよりも純朴な青年です。
 モロボシダン=ウルトラセブンとは誰だったのでしょう。ゴジラを見た三島由紀夫は、あれは戦争で死んだ兵士の霊が日本に復讐に来たのだと思いました。セブンもやっぱり戦争で死んだ兵士の魂のような気がします。ゴジラとは逆に、恨みを残さずに死んでいった、ひたすら純粋で勇敢な若者が日本を救うためにウルトラセブンとして甦ったのだと思えるのです。おそらくアメリカ兵もドイツ兵も勇敢であり純粋だったと思いますが、セブンは日本人にちがいありません。出撃直前なのに友達と肩を組んで何の疑問も無くニコニコしている若い特攻隊員の写真の顔がウルトラセブンです。

 最終回「史上最大の侵略 後編」中のソガの科白。「ダンは死んで帰っていくのだろうか。だったら、ダンを殺したのは俺たち地球人だ」これは金城さんのシナリオの中に書かれていません。どの段階で出てきたのかわかりませんが、つき刺さるような科白です。純粋で勇敢な青年達を殺したのは、軍部とか資本家とかいう実体のあやふやな他者ではなく、全ての生き残った日本人です。

 次回は宇宙船文庫「24年目の復讐ー上原正三シナリオ傑作集ー」を取り上げます。また、ウルトラセブンの話になると思います。

ユートム


「宇宙船」について、しばらく書いていきたいと思います。三ヶ月に一回の刊行で、なおかつ購読者を限定する内容なのですが、この雑誌が世の中に及ぼした影響は小さくないのです。一例として、私は使わないのですが“着ぐるみ”という言い方も「宇宙船」が出所です。それよりも、創刊当時“特撮ファン”という存在が無かったのです。「特撮」という言葉も技術用語であって、現在のように国産怪獣映画・実写ヒーロー番組などのカテゴリーを想起させるものではありませんでした。アニメファンは既に勢力を持って独立しており、徳間書店の月刊アニメージュなどの専門誌も出ていましたが、特撮ファンは、まだ自覚すらしていなかったのです。「宇宙船」以前に出ていたファンタスティックコレクションを読んでみますと“SPFXファン”とも書かれていますが定着しなかったようです。

 それでは、創刊号(昭和55年・朝日ソノラマ)を見ていきます。巻頭特集は「SFファンによるオリジナルモデルコレクション 2Dを超えろ!3D.」SFイラストというジャンルは認知されていたので、「宇宙船」の独自色として選んだのが自作の立体造型物。企画者は聖咲奇さん。Vol.2以降、読者自作モデルの写真を募集したところ、ばんばん送られてきて、名物コーナーになりました。フィギュアとかディテールという言葉が一般的になったのも「宇宙船」の功績ではなかったか?コンテストなども催されるのですが、読者のなかには不器用な人もやっぱりいます。自分で造れないので譲って欲しいという手紙が増えてきます。モデラーは型取りして郵送してあげるのですが、これが、けっこういい商売になりました。趣味と実益を兼ねてホクホクです。そのうち、バンダイなどの玩具メーカーが、この人達に目をつけ、やがて日本経済の一翼を担うフィギュア産業に進展していくのです。

 現在、フィギュアは出来の良いものが簡単に購入できます。しかし、本当は、気に入ったキャラクターやメカを、自分で粘土やプラスチックで造って色を塗るものです。このことだけは強く言っておきたいのです。「宇宙船」の創刊当初のキャッチフレーズは『ビジュアルSF世代の雑誌』。SFといえば、ビジュアルとことわるまでもなく映画だと言う人の方が多いと思いますが、SFとは小説なのです。これが本当です。SF研究会に入って「スターウォーズが好き」と言ったら、たしなめられる時代があったことも併せて記録しておきます。   つづく

アイアンロックス


「ウルトラセブンISM」(平成14年・辰巳出版)セブン正編、ファイト、ゲスト編、続編レオを網羅して、セブンの戦歴が俯瞰できる本。しかし、この本の真価ありがたさは、TVスペシャル二本とビデオ版の詳細が記録されていること。特にビデオは平成10年から14年にかけて途切れ途切れに発表されたので、それでなくても複雑な物語の全貌が把握しきれません。そんな平成ウルトラセブンが一冊にまとまっていることが私にとってはありがたいのです。こういうありがたくて便利な本を私は「ありがた本」と称して重宝しています。次回から「ありがた本」の特集をしていきたいと思います。今、急に決めました。

 ところで、歴史から消えそうなバップビデオの「ウルトラセブン」。必見とは言わずとも端倪すべからざる物です。ウルトラ警備隊役の出演者は固定されていました。つまり、この新レギュラーは四年間ウルトラ警備隊員であったわけで、オリジナルメンバーが制服を着ていた期間よりも長かったのです。忘れてならないのはカザモリ隊員です。モロボシダンからウルトラセブンを引き継いだはずなのに、「メビウス」以降のシリーズで無視されています。あいかわらず森次晃嗣がウルトラアイをつけています。
 また、カザモリ役の山﨑勝之は「仮面ライダー555」第4話で、ベルトを装着して一回だけ555に変身しました。これもまた重大なことではないでしょうか?
プロフィール

ハヌマーン&さとる

Author:ハヌマーン&さとる
怪獣本・特撮書籍の蒐集。

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